Acetaminophen’s diary

化学に関すること,TeXに関すること,ゆきだるまに関すること。

TeX ユーザの集い 2014 について:化学的補足

TeX ユーザの集い 2014 の資料作成テクニック第2弾。今回は化学の専門知識とソフトウェアについて。

その前に、昨日 (2014-11-10) の朝にケムステで公開した記事*1。既に 1,100 アクセスを突破している。好評いただいているようで嬉しい。

f:id:acetaminophen:20141111002614p:plain

 

真面目な化学のハナシ

いくつか誤解が生じている可能性があるので、今回使用したリソースについて改めて説明*2。ぜひ資料と照らし合わせながら読んでほしい。

  • ごはんを食べると、デンプンを摂取する。デンプンはアミロースアミロペクチンの混合物で、アミロースはらせん状にまっすぐ伸びているのに対し、アミロペクチンは枝分かれした構造である。いずれもグルコースという六角形をした分子がたくさん連なってできていて、身体の中で消化されてグルコースになっていく。
  • 人間はエネルギーを ATP という形で使っているのだが*3、ATP をその原料の ADP から生産したり、逆に ATP を分解して ADP にしたりする装置が、人間の体内に備わっている。それが、モーターのような形をした「ATP 合成酵素というタンパク質である*4。このタンパク質は見かけ倒しでなく、ATP を ADP から合成したり逆に分解したりするときに本当に軸が回転している*5
  • よく知られている例として、遺伝子は DNA という分子である。DNA は美しい二重らせん構造を持っている。化学者たちは目的に応じて、分子模型を棒と球で表したり、アニメのようなリボンで表したりといろいろな表現方法を用いる。生きている生物の細胞が分裂するとき、中に持っている DNA も複製されなければならない。ここでもタンパク質が働いていて、DNA とタンパク質が複合体を作って複製作業を見事にこなしている。この複製の精度は非常に高く、ミスをする確率は非常に低く、人間の手ではまねできないほどである。

これで、十分に理解できなかった方も安心。

 

化学構造式の自動生成の補足

以前の記事で、化学構造式を Open Babel と Inkscape を介して自動化出力する方法を紹介した。

この方法で、第1回の \smiles コマンドでは obabel に送るコマンド(\immediate\write18 の中身)を

obabel -:"#1" -O smilesimg\arabic{smilescounter}.svg

としていた。あるいは、第2回の \obabel コマンドでは graphvizObabel.sty のなかで

obabel -:"#2" -O \graphvizGetName.svg

としていた。このままでは、時によって構造式がイマイチ2次元できれいに表示できていない場合がある。

たとえば、発表資料の付録部分(青背景)に示した「セサミン」の構造式は、SMILES 表記

c1cc2c(cc1C3C4COC(C4CO3)c5ccc6c(c5)OCO6)OCO2

を変換して得られた*6。標準では以下のように出力されるはずである。

f:id:acetaminophen:20141111003957p:plain

中央の2つの五角形のかたちが気になる人は多いだろう。このようになるのを防ぐには、obabel のコマンドラインオプションに --gen2D を付加すればよい。そうすると、2次元構造最適化を行ってから出力することができ、同じ「セサミン」は以下のようになる。

f:id:acetaminophen:20141111004123p:plain

TeX ソースへの記述は、\smiles コマンドの場合は

obabel -:"#1" -O smilesimg\arabic{smilescounter}.svg --gen2D

\obabel コマンドの場合は

obabel -:"#2" -O \graphvizGetName.svg --gen2D

のように、末尾に --gen2D を書き加えるだけで済むので、必要だと感じたら追加してほしい。

ちなみに WindowsGUI 版では以下のように Generate 2D coordinates にチェックを入れるのと等価である。

f:id:acetaminophen:20141111004200p:plain

ただし、このような出力結果はバージョンによって異なることがよくあるので注意。

詳細はこの記事の末尾に付録として書いたので、参照してほしい。

 

次回はマルチメディアの作成と変換方法について補足。

*1:はい、ケムステスタッフです! 記事一覧もどうぞ。

*2:化学的に大きな誤りのない程度に相当かみくだいて説明しているので、厳密には正しくないかもしれない。もし明らかな誤りに気付いた方は、コメントください。

*3:グルコースには炭素と炭素の結合がいくつもある。炭素と炭素が結合して少し大きめの分子でいる状態は、二酸化炭素という小さな分子でいる状態よりも不安定で、すなわちエネルギーを持っているグルコースと呼吸で取り入れた酸素は、何段階も経て最終的には二酸化炭素と水になるのだが、このとき相当量のエネルギーが放出される。このエネルギーを、人間は ATP という「エネルギーを保持できる分子」の化学エネルギーとして蓄えているわけである。

*4:説明不足で「モーターみたいなものが ATP だ」とか「グルコースが ATP に結合する」という誤解が生じかねないのでちゃんと説明しておこう。「モーターは ATP 合成酵素」である!

*5:実は、この回転の事実を証明する実験を行ったのが、僕が現在所属している研究室の教授である:原著論文も参照。合成の場合は、モーターに原料 ADP が結合し、モーターが回転してできた ATP が放出される。分解の場合は、モーターに ATP が結合し、逆回転して ADP が放出される。

*6:この SMILES 表記はもちろん ChemSpider で検索することにより得られたものである。