Acetaminophen’s diary

化学に関すること,TeXに関すること,ゆきだるまに関すること。

ブラウザで動く便利な化学系ツール

最近、各所で JavaScript を利用して Web ブラウザ上で動くアプリケーションを探索し、こまめに紹介してきた。

これらに加え、今回はさらに発見したツールを2つ追加して紹介する。

追記 (2015-12-01):JSmol を使った分子表示の例も仲間入り。

 

1. Molecule Calculator (MolCalc)

こちらは、ブラウザ上で構造式を描画すると(JSmol による3次元モデル構築)、物性値を予測したり分子軌道を計算してくれたりするサービスである。

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構造式を描画して(水素以外の原子数が10個までという制限あり)Calculate Properties をクリックすると…

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エンタルピー・エントロピーや生成熱の予測値を計算してくれる。

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分子軌道を表示(図はエネルギーの低いほうから13番目の軌道;今回は全部で58個の軌道を計算してくれた)。

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分子振動も計算してくれる。実際にはアニメーションで表示される。

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静電ポテンシャルもきれいな図で示してくれる。これらの機能はすべて iPad などのモバイル端末でも十分機能する。Google Chrome がブラウザとしては快適だった。

 

2. NCATSFind: Resolving Chemical Content in Browser

こちらFirefox 専用のアドオン*1。ページ内のリンクからアドオンをダウンロードしてインストールすると…

任意のサイト内に CAS Number を検知すると、その化合物の情報を自動で取得する。 CAS Number の上にマウスを置くと構造式が表示される。

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CAS Number のすぐ隣にアイコンが表示されているので、ここをクリックすると構造式の情報が表示され、さらにポップアップしている構造式をクリックすると…

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構造式エディタがブラウザ上で起動する。表示されている構造式は MDL Molfile としてダウンロード可能である。

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Firefoxツールバーに現れているアイコンをクリックすると、Snapshot to Structure というボタンがある。ここをクリックすると、マウスポインタが画面上の領域を選択するための十字マークに変化するので、任意のサイト上の構造式の画像 (PNG, GIF, etc.) の範囲をドラッグして選択すると…

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なんと OCR 機能のように構造式を認識し、エディタ上で表示してくれる。もちろんこちらも MDL Molfile 形式でダウンロード可能である。

この“構造式 OCR 機能”と呼ぶべきものは、OSRA: Optical Structure Recognition なるライブラリに依存している。これがブラウザ上で機能し、画像を認識して構造式に変換してくれるのだ。

 

以上、2つのツールケモインフォマティクスと呼ばれる化学の一分野の成果を活用し、他の分野の研究者・学習者にとっても有用な情報を提供してくれる。いずれのツールも日本語での紹介記事は僕が探した範囲では見当たらなかったので、この記事をきっかけにもっと日本でも認知されれば幸いである。と同時に、ケモインフォマティクスという分野ももっとメジャーになればと願っている。

*1:追記:Chrome 版もあり、ケムステ記事で紹介。