「ヒカリ展」に行ってきた(2)
前回の続き。国立科学博物館「ヒカリ展」の補足として、今回は化学的側面から。
光と色の関係性
モノの色にはいくつかの原理がある。大きく分けて自ら光る発光と、他からの光を受けて一部を吸収し残りを反射するものがある。
黒体放射:高温のものが出す光
(画像は国立科学博物館-宇宙の質問箱-恒星編より)
溶鉱炉の鉄が赤く見える現象、太陽や夜空の星、白熱灯や古くはたき火などもこの黒体放射(黒体輻射)に基づく。温度が低いときは赤外線やもっと波長の長い光*1しか出さないが、温度が高くなるにつれてより高いエネルギーを持つ可視光を発するようになり、赤から黄色、白、青白へと変わっていく。太陽が黄色く、夜空で一番明るいシリウス(おおいぬ座)が青白く見えるのは、この黒体放射によるものである。黒体放射を逆に利用して高温の物体の温度を知ることも可能で、加熱された鉄の温度を測定したり、恒星の表面温度を算出したりする際にも役立つ。
ちなみに「黒体」とは、炎色反応のような物質特有の色をもたず、純粋に自らの温度だけに応じて発色する物体を仮定したものである。このように、物理学の世界では法則を数式で定式化するにあたり、理想化によりものごとをとらえることが多々ある*2。
上の「雑科学ノート」のページは、黒体放射に限らず本記事で取り上げる「発光」に関する内容をほぼ網羅している。星の色と温度については科学博物館の常設展の地球館 B3F でも解説されている。
炎色反応:電子の遷移に伴う発光
(画像は炎色反応 - 結晶美術館より)
花火の色は金属の炎色反応に由来する。高温の炎の中に入れられた金属や金属化合物は熱エネルギーによって解離・原子化し、それぞれの原子は熱エネルギーによって励起される。励起とは、簡単には「原子がエネルギーを受け取ることによって、安定な電子配置から外側の電子軌道に電子が移動し、原子がより高いエネルギーを持つこと」と説明される。この高いエネルギー状態から元の低い状態、すなわち基底状態へと戻るとき、元素ごとに決まった波長の光を出す。つまり、余分なエネルギーを光のエネルギーとして放出することになるので、これがちょうど可視光に一致するとき炎色反応として目に見えるのである。動画や写真付の説明は例えば以下:
炎色反応を説明するのに Bohr モデルは便利。ということで、突然だが LaTeX の bohr パッケージで遊んでみる(笑)TeX Live なら標準で入っているはず。
ソースと PDF はこちら(Google):Bohr-test.tex, Bohr-test.pdf
遊んでいて気付いたが、このパッケージの機能で励起状態は描けないね!*3というわけで、Bohr モデルでの説明も割愛。上の関連記事をどうぞ。
蛍光:光による励起と発光
炎色反応は熱エネルギーで励起するが、蛍光は光エネルギーによる励起である。分子が光の持つエネルギーを吸収すると、より高いエネルギー状態に励起される。高いエネルギー状態の中にもいくつかの状態があって、励起された電子はその中でもより低い状態に落ち着き、この際に一部のエネルギーを熱エネルギーとして放出する。そこから元の基底状態に戻るときに、残った余分なエネルギーを光エネルギーとして放出するが、先ほど熱エネルギーとして一部を失ったために、ここで放出される光は吸収した光より小さなエネルギーを持つ。このため、発光は吸光に比べて波長が長くなる。例えば蛍光灯では、水銀原子が出す紫外線の光エネルギーを管内に塗られた蛍光体が吸収し、より波長の長い可視光として発することにより白く光る。
ちなみに2008年のノーベル化学賞は「緑色蛍光タンパク質 (GFP) の発見と発光機構の解明」に対して贈られた。近紫外線を吸収して緑色可視光を出すタンパク質であり、オワンクワゲを家族ぐるみで集めた下村先生の話は記憶にある方もいるだろう。
(画像は RCSB PDB-101 - Green Fluorescent Protein (GFP) より)
せっかくなので以前紹介した「PDF に 3D モデルを埋め込む方法」で、GFP の分子モデルを表示してみる。
RCSB PDB - 1EMA Structure Summary からとってきた 1ema.pdb を Jmol で表示*4し、IDTF 形式を経由して U3D に変換し、さらに pdflatex で media9 パッケージの機能により PDF に取り込む!
ソースと PDF はこちら(Google):1EMA-GFP.tex, 1EMA-GFP.pdf
ちなみにサンプル PDF の1ページ目(上図左)は Cartoon 表示で発色団部分だけ Ball & Stick 表示のデフォルトのまま、2ページ目(上図右)は周囲だけ Backbone 表示に変更。というのも左図では鎖が細すぎるので、見づらくてしょうがない…
(まだ続く)