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Acetaminophen’s diary

化学に関すること、TeXに関すること、ゆきだるまに関すること。

「ヒカリ展」に行ってきた(3)

化学 お出かけ

またまた前回の続き。

 

蛍光:光による励起と発光(続き)

なぜ GFPノーベル化学賞を受賞したかというのは非常に重要。

オワンクラゲの体内で、緑色蛍光タンパク質 GFP は、カルシウムイオンの濃度に応答して青く光るイクオリンという発光タンパク質と複合体を作っている。イクオリンが発する青色の光を GFP が吸収し、緑色の蛍光を出すという二段階のメカニズムになっているわけだが、ここでの重要な発見は

であった。1つめや2つめの発見ももちろん重要であるが、2008年のノーベル化学賞は3つめの発見に関連している。すなわち、蛍光物質の正体がすべてアミノ酸だけが連なってできたタンパク質であり、しかも外的要因を一切必要とせず自発的に発色団を形成することが判明したという点である。

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もっとも発見当初は応用を想定していたわけではないはずだが、この結果として、遺伝子操作によって人工的にタンパク質を発現させる技術さえあれば、生体内の任意の場所に蛍光物質を導入する道が開けたのである。そこで、GFP は生命現象を可視化する手段として広く用いられるようになり、多くの生命現象の解明に一役買ったのである。

実際に僕も、大学で受講した実験科目で GFP大腸菌によって発現させることに成功したが、手順通りにやれば簡単に目的の蛍光タンパク質を好きなだけつくりだせる。これほどの手軽さは、外的条件を変化させなければ発色団を形成しないような蛍光物質では実現できないだろう。

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写真の説明もしておこう。左2つは GFP の遺伝子が導入された大腸菌から精製した GFP で、右2つは導入していない大腸菌にも同じ精製操作を行ったもの。左2つのうち、左は誘導物質 IPTG を加えた培地、右は IPTG なしの培地で培養*1)。

ちなみに、会場には日本分光株式会社 (JASCO) の紫外可視分光光度計 V-550 も展示されていた。日頃研究室で使っているものより古い型番だったが、顔なじみのような気がした。

化学発光: 化学反応に伴う励起状態

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ケミカルライト - Wikipedia

ホタルの光や、血液の検出に用いられるルミノール反応は、化学発光に基づく。蛍光は光により励起状態をつくりだすが、化学発光では化学反応に伴って励起状態が生じ、それが基底状態に戻るときにエネルギーを光として放出する。コンサートでよく使われるスティックライトも化学発光。

ここまではすべて発光に基づく色であるが、身近に見えるもののほとんどは発光ではなく吸光や反射、散乱に基づく色である。いくつかの例を挙げておこう。

花の色、葉の色:光の吸収と反射

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花や葉には色素が含まれている。こうした色素はさまざまな色の光を含んだ太陽光を浴びて、特定の色(波長)の光を吸収して残りを反射する。花の色や葉の色は、色素によって吸収されずに反射した光の色である。

例えば緑色の葉は、よく知られているように葉緑素クロロフィルによる色である。クロロフィルは赤色と青色の光を吸収し、緑色の光を反射しているのである。なお、葉にはクロロフィルの他に黄色のカロテノイドという色素も含まれている。気温が下がるとクロロフィルが分解されて減少し、もともと存在したカロテノイドの色が目立つようになって葉が黄色く色づく。ちなみに、紅葉は赤い色素であるアントシアニンが作られ始めることによる。

シャボン玉の膜、昆虫の翅:薄膜による光の干渉

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ゆんフリー写真素材集 : No. 5374 シャボン玉

シャボン玉の膜や油膜が色づいて見えるのは、薄膜の片面ともう片面のそれぞれで反射した光線が重ね合わさるとき、特定の波長の光が強め合ったり逆に弱めあったりする干渉に基づく。光の干渉効果はまさに光が波の性質を持つことの証明である。

自然界でも昆虫の構造色が多層膜干渉に基づいている。コガネムシタマムシなどの昆虫の翅は、薄い膜が何枚も積み重なった多層膜の構造になっている。それぞれの膜で反射された光が干渉しあい、美しい色を出している。

ちなみに「光と色と」には、タイトル通りさまざまな「色」と「光」の関係や、光に関するさまざまな性質が読みやすくまとめられている。本記事で取り上げた以外にもいろいろな色の原理が解説されているので、必見。

 

美しい鉱物

鉱物は「石マニア」にとってはたまらないはず。紫外線を当てると見事な色に光る姿には目を奪われる。

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「ヒカリ展」公式ウェブサイトより)

展示では可視光と紫外線を交互に照射し、その色の変化を楽しめるようになっていた。写真だけでは十分に伝えきれないので、ぜひ会場で味わってほしい。さまざまな結晶の美しい写真を化学組成とともに紹介しているサイトは、例えば以下がある:

特に結晶美術館は、すでに化学のリンク集 (2014-10-09) で紹介しているとおり、さまざまな結晶の美しい写真が多数掲載されている。こうした写真は「ヒカリ展」で販売されている図録にも提供されているそうで、ヒカリ展を見るならこちらも必見!

関連グッズコーナーで販売されている図録も、多数の写真を掲載していて読みごたえあり!(税込 2,000 円)というわけで買ってしまった。物理法則、宇宙の話から鉱物や生物の話、最先端の話題まで広範囲にまとめた良書だと思う。

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最後に

というわけで、全3回にわたってヒカリ展のみどころと、背景にある原理の解説をしてきた。でも「じゃあもう行かなくていいや」にはならないでほしい。今回の解説の目的は展示の魅力を伝えることであり、本記事で解説した内容を少しでも頭に入れておけば、より展示を楽しめるかもしれない。科学博物館のいいところは

教科書でしか見られないような現象、
あるいは最先端の技術を、実際に目で見て体感できる

ところにある。現物展示と詳細な解説は科学博物館の得意とするところで、とりわけ蛍光を放つ鉱物は実際に目で見て確かめなければ感動は伝わらない。クリスマスシーズンを含む長い会期(狙ってるな笑)なので、まだの方はぜひ!

*1:紫外線を箱の中で当てながらカメラを入れて撮ったので画質が悪い…が、一番左が最も明るく、誘導物質なしでは GFP 発現量が減少しているのがかすかに見えるはず。