古い TeX をインストールする (W32TeX, TeX Live)
この記事は、サブブログの 2016-05-18~2016-05-20 投稿記事を移転してきたものです。
最新版の TeX ディストリビューションをインストールするのは、方法さえ間違わなければ割と簡単である*1。ところが、ディストリビューションは日々更新されていて、サーバ上で次々に上書きされる*2ので、一昔前のバージョンを入手するのは意外に困難である。年を経るにつれて古い情報も埋もれていき(もちろん新しい情報が増えていくので好ましい!)、ふとした拍子に「いつ何が変わったのか」を確認したくなっても参照先が見つけられないことがよくある。
今回は備忘録も兼ねて、古い TeX ディストリビューションを入手できるサーバのうち僕が使ったことのあるもの(今でも生きているところ)を貼っておく。
古い TeX Live のダウンロード
これは munepi さんが書いてくださっているので、詳細はそちら参照。
TeX Live historic には 1996 年以降の TeX Live がアーカイブされていて、日本語 TeX 開発コミュニティ (texjp.org) のサーバには 2012 年以降の TeX Live + tlptexlive (tltexjp) がアーカイブされている。後者は、特に「TeX Live 2013 が tlmgr で 2015 pretest まで更新されてしまうコワイ話」も起きないので安心。
日本語TeX開発のdevel ML開設のほか、過去のTeX Live置き場 http://t.co/M5VLO6zlDA を開設しました。最新版2015のtlnetだけは、JAIST公開ミラーのそれに飛ばしています。こちらについて、後日に別途説明します。#TeX #テフライブ!
— Munehiro Yamamoto (@munepixyz) June 26, 2015
@PowerPC7450 @aminophen @kuroky_plus つ http://t.co/M5VLO6zlDA を開設♪
— Munehiro Yamamoto (@munepixyz) June 26, 2015
最新版はfrozenまではこれまでどおりで運用し、frozenになってから、tlnetをこちらに切り替えるとアレな事態が起こりません!
僕自身もちょっと古い TeX Live はここからインストールするようにしている。
コラム:TeX Live の前に日本で使われていたのは…
2011 年ごろまでは、Windows 以外の環境では土村さんの ptetex や ptexlive が広く使われていた。2016 年の今ではすっかり日本の成果物が TeX Live に取り込まれ、あたりまえのように配られているが、この取り込みの布石となったのは ptetex / ptexlive に間違いないだろう*3。これらはまだソースが残っているので、ビルドすれば…
この頃に比べれば、今は格段にインストールが楽になったといえるだろう(ねっ?>本稿の冒頭の発言へ戻る)。
古い W32TeX のダウンロード
数か月前程度のものなら兼宗さんのところに残っている(W32TeX - TeX Wiki にも記述あり)。
それよりちょっと古い 2013 年末のものが KTUG にある。同じ KTUG にはさらに古い 2008 年のものも残されている。
驚くべきことに、dviout/dviprt で有名な大島先生のところには、2003 年の W32TeX がバックアップされている。残念ながら pTeX のバイナリを含む ptex-3.1.2-w32.tar.gz だけが残っていないが、他は揃っていて手元の Windows 7 でもちゃんと動く。
それより古いものは…書籍についている CD-ROM やフロッピーディスクを読めれば入手可能だと思うが、試していない。
余談 (1):W32TeX のインストーラ版
ちなみに、W32TeX は一時期 msi 形式のインストーラを持っていたことがあるらしい。こちらも KTUG のアーカイブに残されている。
これに丸ごと入っているので、これ一つ持っておけばいつでも 2008 年初頭の W32TeX を展開&インストールできて便利。
余談 (2):e-pTeX 電卓?
2008 年の W32TeX というのを挙げたが、この頃は北川さんによる e-pTeX が話題になった直後である。当時の資料*4にも書かれているとおり「浮動小数点演算の実装」パッチがまだ入っていたころである。というわけで
C:\tmp>eptex \fpinit This is e-pTeX, Version 3.141592-p3.1.10-2.2 (sjis) (Web2C 7.5.6) entering extended mode Floating operation initialized. *\skip300=\real2 \fplog\skip300 *$\log2\simeq\fpfrac\skip300\times10^{\fpexpr\skip300}$\bye [1] Output written on texput.dvi (1 page, 440 bytes). Transcript written on texput.log. C:\tmp>dvipdfmx texput texput.dvi -> texput.pdf [1] 7550 bytes written
となって計算結果がプリントされる(この例は fp.pdf より)。
もちろん最近の eptex では
C:\tmp>eptex \fpinit This is e-pTeX, Version 3.14159265-p3.7-160201-2.6 (sjis) (TeX Live 2016/W32TeX) (preloaded format=eptex) restricted \write18 enabled. entering extended mode ! Undefined control sequence. <*> \fpinit ?
となる。
余談 (3):アレ、restricted \write18 は?
さっきの 余談(2) の e-pTeX の起動時のログを見ると
restricted \write18 enabled.
がない*5。この当時はまだ restricted shell escape という概念が存在せず、-shell-escape と -no-shell-escape の二択だったことを示している。restricted shell escape が導入されたのは TeX Live 2009 なので当然である:
- What does \write18 mean? (Joseph Wright)
いろいろ見ていると、やはり TeX も生きていることを感じる。
ちなみに:私の TeX 環境
さすがにこれは日本最多クラスだろう:
そういえば、今すぐにパス切り替え等で呼び出せる“完全な状態のTeXインストール”、数えてみたら12個あるなw
— Acetaminophen (@aminophen) September 30, 2015
2015-09-30 現在
Windows 環境 (Windows 7 64bit) には実に9つ、独立にインストール。そして Mac 環境はスタンダード(?)に MacTeX をインストール。
- W32TeX 2012/2014/最新 ← メイン!
- TeX Live (Win32) 2013/2014/2015 ← サブ(最近はテストが主)
- TeX Live (Cygwin) 2012/2014/2015 ← pdfjam とか動かせる
- TeX Live (Debian) 2012 ← MathLibre 2015 使用時
- MacTeX 2014/2015 ← 学校内メイン
並べてみると確かに多い。pdfjam 動かすだけで Cygwin にインストールするのかというツッコみはしないでほしい*6。
多いのは TeX だけじゃなかった
Windows 環境の Ghostscript は gs7.07 / gs9.10 / gs9.14 / gs9.16 が揃っている。これだけ多いとよくわからなくなるので、PATH は「TeX ひとつ、GS ひとつ」に通るようにしてある。その代わり、コマンドプロンプトから呼び出すのに便利なように「パスを切り替えるだけのバッチファイル」を自分で書いていて、その間だけ別の TeX + GS 環境を動かすことができるようになっている。Cygwin のターミナルからは既定では TL2012 が起動するが、パスの切り替えは簡単。
2016-05-23 現在
上に書いたような古い TeX をインストールしたことで、結局こんな感じになっている:
- W32TeX 2003/2008/2012/2014/最新 ← メイン
- TeX Live (Win32) 2014/2015 ← サブ
- TeX Live (Cygwin) 2012/2014 ← pdfjam とか動かせる
- TeX Live (Debian) 2012 ← MathLibre 2015 使用時
- MacTeX 2014/2015/2016pre ← 学校内メイン(自前ビルド)
TeX はインストールが全てではないので、真似はしないように…。
*1:ここではそういうことにしておこう;-)
*2:現に W32TeX は角藤さんのご尽力でバイナリもパッケージもほぼ毎日更新されているし、TeX Live も年に一度(4-6月)のメンテナンス期を除いてパッケージが毎日更新され、メンテナンス期にはバイナリが rebuild される。
*3:その当時はまだ僕は TeX の存在自体知らない高校生とかだったわけだが…。
*4:「計算数学II 作業記録」resume.pdf または eptex_resume.pdf を参照。
*5:そういえば、LuaTeX beta-0.85.0 で \write18 が廃止されたのも記憶に新しい。
*6:文字コードまわりとか、texmf.cnf の設定とか、結構 win32 バイナリと cygwin バイナリの違いにハマることがあるので、Windows 環境でいろいろ動くのは重宝する。