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Acetaminophen’s diary

化学に関すること,TeXに関すること,ゆきだるまに関すること。

「ヒカリ展」に行ってきた(1)

10月末から上野の国立科学博物館で始まっていた「ヒカリ展」に、昨日やっと行ってきた。先週まで TeX ユーザの集いや旅行であわただしかったのでなかなか行けず、ようやくという感じ。

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ヒカリ展 光のふしぎ、未知の輝きに迫る!

会期:2014年10月28日(火)~2015年2月22日(日)
会場:国立科学博物館(東京・上野公園)
開館時間:午前9時~午後5時
※金曜日は午後8時まで。ただし、1月2日(金)は午後5時まで。
※特別開館延長 11月1日(土)・2日(日)は午後8時まで。
※入館は各閉館時刻の30分前まで。
休館日:毎週月曜日(祝休日の場合は開館し、翌火曜日が休館)、12月28日(日)~1月1日(木・祝)。ただし、12月22日(月)、1月5日(月)は開館。

「ヒカリ」とはいっても、目に見える光(可視光)だけでなく波長の長い光(電波や赤外線など)や短い光(紫外線や X 線など)まで広い意味でのヒカリ、つまり

電磁波

をテーマにしている。これまで何度か(たぶん5回くらい)科博を訪れ、「インカ帝国」とか「深海」をテーマにした特別展を見たことがあるが、今回は普遍的な「ヒカリ」がテーマというだけあって、期待度大!

 

いくつか公式サイトからの綺麗な写真を紹介。

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オーロラ! 会場では 3D シアターも見られる。

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天然の蛍光を発する鉱物。見た目(可視光の下)では地味な石が、紫外線を当てると綺麗な蛍光を発する! わずかな組成の違いで色が変わる神秘。

会場では世界初公開の遺伝子組み換えにより実現された「光る花」の実物や、光に関する研究を行った偉人たちによる貴重な書籍も展示。この辺の写真は他の記事にも掲載されているので、ここでは割愛。

例えば:実際に行った人の日記

もう一つ、僕より後の12月に行った方のブログ:

画像のまとめなら以下が豊富:

で、ここでは化学を専攻する身として、理解を助ける補足説明と、参考になる Web サイトの紹介を*1。まずは物理的側面から。

 

光は「波」であると同時に「粒子」である

直感的には理解しがたいが、現在ではこれが定説である。古くは古代ギリシャ時代から「光の正体」は議論の的になってきたわけだが、20世紀になってからようやくこの結論に達するまでの過程は非常に興味深い。

17世紀のホイヘンスは、光の反射・屈折・回折現象をうまく説明できるとして球面波理論を唱えた。つまり、光は波の一種だと考えていたわけだ。一方、同時代のニュートンは、既に完成していた自身のニュートン力学と関連付け、光の直進や反射を説明していた。つまり、光は粒子の一種だと考えたのである。その後、19世紀初頭のヤングが二重スリットを用いた光の干渉実験を行い、光は波であることを証明したとされる*2

一方で、19世紀にマクスウェルが完成させた電磁気学からも光の本質への理解が進み、光は電磁波の一種であるという定説が生まれた。これには、フィゾーが歯車を用いた実験によって光の速度を測定したことも大きく貢献している*3

しかし、20世紀に入るころに波動性では説明できない現象が報告される。それが光電効果や黒体放射であった。そこで有名なアインシュタインが発表したのが光量子仮説である。つまり、光は振動数によって決まるエネルギーを持った粒子であると提唱したのである*4。ここから量子力学が発展し、そこでは

  • 「光は(それまで波だと思われていたが)波でありかつ粒子である」
  • 「電子は(それまで粒子だと思われていたが)波でありかつ粒子である」

ことが正しいとされている。電子についてはド・ブロイが「光が粒子性を持つなら逆に電子も波動性を持つのでは」と考えて物質波あるいはド・ブロイ波という概念を提唱したことによるものである。

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これらを論じた歴史的に重要な出版物も会場で目にすることができる。比較的短く読みやすい Web リソースとしては以下が参考になるはず:

もっと詳しく読みたい方は適当な書籍をどうぞ。

 

光の利用の広がり

人間は周囲からの情報の約8割を視覚に頼っているらしい。太古から光は人間の生活になくてはならないもので、科学の進歩につれてその用途は肉眼では見えないものの観察や測定へと広がった。

宇宙を見る

スケールの大きな方としては宇宙を見ること、つまり天体望遠鏡の発展だ。ガリレイ木星の衛星を観測したことは有名だが、いまでは可視光のみならず電波望遠鏡や赤外望遠鏡、紫外望遠鏡など様々な波長の光を用いるようになった。ハワイのすばる望遠鏡の縮小模型やその光学系(主焦点補正光学系)の説明もあった。他にも展示や解説があったプロジェクトは多数。関連サイトはこちら:

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写真はアンドロメダ銀河(すばる望遠鏡のサイトの「壁紙コレクション」より)

小さなものを見る

一方、微小な世界を見るための技術も進歩した。顕微鏡を使ってノミやコルクを観察し「細胞 (cell)」を名付けたフックをはじめとする歴史も重要である。先ほど説明した「物質波(ド・ブロイ波)」の概念により、従来型の光を用いた光学顕微鏡に加えて電子顕微鏡が発明され、観察対象は大きく広がった。

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そういえば今年のノーベル化学賞は「超解像度の蛍光顕微鏡の開発」に対して贈られた。

The Nobel Prize in Chemistry 2014 was awarded jointly to Eric Betzig, Stefan W. Hell and William E. Moerner "for the development of super-resolved fluorescence microscopy".

The Nobel Prize in Chemistry 2014

この話題についてはヒカリ展では一切取り上げていなかった(と思う)。ここが唯一残念! というわけで、今年のノーベル化学賞を解説した記事を挙げておく:

前日に発表されたノーベル物理学賞で日本人3氏が受賞したためにメディアでもほとんど取り上げられず、Web リソースもほとんどない! せめてヒカリ展でくらい取り上げてほしかったな… ちなみに物理学賞の方は急遽準備した感じで取り上げられていた。関連記事も多い*5

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今年は物理学賞も化学賞も「ヒカリ」に大いに関連するものだっただけに、扱いの差が歴然。メディアでも日本人の受賞は大きく取り上げられるが、日本人が入っていないとなると扱いは小さくなり、Yahoo! のトップニュースにも現れなくなる。科学や化学をもっと広めなければ

 

ちなみに会場ではオーロラの 3D シアターを見られる。この技術は「オーロラトモグラフィ法」といって、多地点のカメラで同時に撮影した画像からオーロラの3次元構造を復元する方法を用いている。会場の展示はスカンジナビア半島の3地点での撮影を再構成したもの。

で、一般論として 3D シアターがどうやって実現されているかあまり知られていないので、簡単に解説しておこう。いちばん簡単な方式なら理解しやすいはずだし、準備さえすれば誰でもできないことはない。

サングラスのように少し黒っぽいメガネを使うことが多いが、この左右のレンズは偏光板になっている*6。一つのスクリーンに2つのプロジェクターを使って右目用と左目用の映像を投影するが、各プロジェクターから出る光は偏光板によって互いに直交する偏光にしておく。すると、偏光メガネをかけた人には右目用映像の光は右目だけ、左目用映像の光は左目だけに入ることになる。したがって、立体視が可能となる。短めでかつ読みやすい説明(図入り)は例えば:

実際に2つのメガネを使って左右のレンズを重ねてみると光が通らず真っ黒になり、片方のメガネを90度回転させて重ねた場合は光が通って透明になるはずだ。会場で試してみよう!*7

 

というわけで、次回に続く

*1:考えてみたら、このブログで初めての「化学」らしい記事だな…

*2:この有名なヤングの実験はヒカリ展の会場でも展示されている。

*3:フィゾーの実験は常設展の会場内で体験できる。

*4:アインシュタイン相対性理論で有名だが、彼が受賞した1921年のノーベル物理学賞はこの光電効果を説明した理論に対するものであった。

*5:なんでケムステも有機化学美術館も化学賞の記事の方が少ないの?

*6:偏光板が黒っぽく見えるのは、自然光は様々な偏光面をもった光の混合であるため、このうち特定の方向の偏光だけを取り出すと透過できる光の総量が減少するためである。

*7:本来なら常設展の地球館2Fのたんけん広場に「まぼろしの壁」と称した偏光板の解説があるはずだったが、現在科博リニューアル工事中のため見られない。今は

というページで概要が紹介されているだけである。便宜上ここに解説ページのスクリーンショットを置いておく。